ある時、この国で大きな戦が起こった。
 大勢の人間が二つに対立し、大した理由もなくして憎み合う戦場は人の醜い欲に塗れていく。
 手にした刃で名も知らぬ誰かと斬り合って、殺し合った。 大地は穢れた真っ赤な鮮血に染まり、血溜まりの河が静かに流れる。

 それは、まるで地獄絵図。

 終わりのない奈落が存在する。人間達はそこに引き込まれていった。
 奪った命、奪われた命、失った心の音、失われた心の声。
 怒り。憎しみ。残った思念は無念を嘆き、それはやがて負の感情を生み出した。 血に穢れた大地に付着し、浄化は不可能となった。抉られた傷跡は癒えることを知らなかった。

「何とも嘆かわしい……。人間とはかくも愚かな種族であったか」

 そこに生きる者がいた。そこに、生まれた者がいた。
 残留思念に包まれ、それは一つのものになった。全てが同一にして、全ては別物である。



 負にして悪。

 悪にして善良。



 怒りがあった。憎しみがあった。それは、純粋な憎悪が出来上がる瞬間であった。
 憎悪に愛される。必然でもなく運命でもなく、ただ、逃れることが出来ない。

「俺を生み出すなど、人間とは真に愚かなものだ」

 そして、彼は哂う。

「俺はこの世に存在すべきものではないと言うのに」

 頼んでいない。
 望んでもいない。
 幼稚でくだらないこんな生を受けて、恨みこそするが、一体誰が感謝するというのか。
 馬鹿らしい。嗚呼、なんて愚かな人間達。

「憎しみしか生み出せぬ人間など、早々に消え去るべきだ」

 受けた怒りを、与えられた恨みを、全て。返還しよう。
 始まりは終わった。これは、終焉が始まる合図なのだ。癒されぬ傷と癒されぬ心。それらを終焉へと導く、灯火なのだ。
 誰も知りえなかった喜劇がある。茶番という名の喜劇は終わり、悲劇が幕開け、やがては復讐劇へと変わるだろう。 目に見えぬそれは、必然にも近い。

 最早止まることすら、許されない。

 苦しめ。愚かな人間達よ。
 味わった地獄の苦痛と屈辱を存分にその身へ浴びるがいい。
 そして、俺を生み出した愚かな己を悔い続けるがいい。

「―――赦しはしない」

 憎悪にひたすら愛された子。憎悪が全ての世界を味わった者。業火の憎悪に抱かれた男。
 憎悪は煉獄の炎のように、死を感じるほどに熱く滾っていた。




御 伽 草 子 〜清らなる古の葬送曲




 人が産み落とした哀しみは愛されることを知らない。