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「今生きてるってことは、いずれ死ぬってことだ」
それは呼吸をすることと同じで、当然のことだと彼は言う。 人が死ぬことは当然であり、それは呼吸をすることのように当たり前のことだと彼は言う。 生きている限り、人は、生き物は、必ず死ぬ。 「死なねぇ生き物なんているか? いるはずがねぇだろ、生きてるんだからな。仮に死なねぇ生き物がいるとしたら、もうそいつは生き物なんて呼べねぇんだ。死なねぇなんて・・・生き物の皮を被ったただの化け物に過ぎねぇ」 彼が自身の言葉に同意を求めているわけではないことを、僕は知っている。 彼は同意を求めているわけではなく、ただ吐き出しているだけだ。当然のことを、ただ何となく、声に乗せてみただけだ。 彼にとって当たり前のことを、そして僕達にとって当たり前のことを。ただ何となく、吐き出してみる。 僕達の『当たり前』が世間一般にとって『当たり前』でないことを知っていながら、彼はそんなことを言う。 わざとらしく、声に出してみる。傍から見れば、それはあまりにも無責任で理不尽な独り言だろう。 当たり前のことを、当たり前と認めていない人は多い。むしろ、大半の人間がそうだ。 人は、死を恐れる。生き物が死ぬのは当然のことだというのに。 「けどまぁ、んな化け物なんざいるわけもねぇよな。な、螢?」 彼は今気付いたとでも言いたげな口振りで僕に同意を求めた。 軽い調子で投げられた声に「そうだね」、と短く返し、目を伏せる。 人はいずれ死ぬ。僕は死に、彼も死ぬ。当り前のように。ただ、僕達の『当たり前』は狂気に似ている。絶対に触れてはならない禁忌に近い。それでも、知ってしまった僕達は戻れない。 いつから。 僕達は一体いつから、この『当たり前』を知っていたのだろうか。知ってしまったのだろうか。 ふと浮かんだ些細な疑問を、僕は彼とは真逆に、声にも出さずそっと飲み込み腹の奥底で溶かすことにした。 |
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「朔が初めて人を殺したのはいつだった?」
そう問い掛けてきた螢は普段と変わらない表情をしていた。 ふわりと柔らかい、穏やかな顔。血生臭い世界が全くといって似合わない、優しげな顔。 そんな螢の口から汚れた言葉が零れる度、俺はいつだって背徳的な気分を味わう。 「そんなもん一々覚えてねぇよ。……お前は?」 「実は僕もよく覚えてない」 「なら聞く必要ないだろ。覚えてたからって、今さら戻れるわけでもねぇし」 「それもそうだね」 多くの者を手に掛けてきた手。 螢は困ったように頬を掻き、小首を傾げながらそっと目を細める。 彼の指先は血に濡れてこそいないが、俺と同じ罪人の手だ。 人の良い顔をした男が躊躇いもなく、自らを汚していく。 真っ白なページに滲みる一滴のインクのように、一度広がってしまえば元には戻せない。 俺も、螢も。手を染めたが最後、あとはどこまでも落ちていくだけだ。 「朔は、戻りたいと思ったことはある?」 「……いや。戻ったところで、たぶん俺はまた同じことを繰り返すだろうからな。無駄だろ」 それを止めることは出来ない。その術などない。だというのに、俺はいつからか落ちるばかりの自身に安堵している。 汚れていくばかりの優しい男に、心から安堵している。 「確かに。僕も、結局は同じ道を選ぶ気がするよ」 汚いのは俺だけじゃない。螢のように優しげな顔をしたやつですらその手を血に染めるのだから、 きっとこの世界自体が汚いのだ。 そう思うと、胸の奥をすっと何かが下りていく気がした。 |