|
「ちょっとだけ背中貸してヨ」
昴には弟がいる。 四歳年下の弟はいつだって甘え上手で、四六時中昴の傍から離れない。 私生活でも、仕事中でも。どんな時でも、二人は一緒だった。 「ネ、いいデショ?」 「はいはい、どうぞ。今日は少し忙しかったもんね」 「そう? 僕はまだまだ楽しみたかったヨ?」 ころころと弾んだ声がしたかと思うと、昴の背後に慣れ親しんだ気配がトン、と寄り添ってくる。 背中から伝わるのは心地の良い重みと、穏やかな体温。 昴とのスキンシップを好む弟は当然だと言いたげな態度でそこに体を預けてきた。 じわりと溶け合う温もりが幸せだと、昴は思う。 二人の境界線がなくなってしまうまで溶け合えたら、もっと幸せだ。 決してあり得ないことではあるが、昴はふとした時にそんなことを考える。 傍から見れば異常でしかないことを、何度も本気で思い描く。 「ねぇ、鴇」 昴の世界は、ひどく狭い。 なぜならそこには昴自身と弟である鴇の存在以外を一つとして認めていないからだ。 「少し、眠ってもいいかな」 「うん。僕も少しだけ眠るヨ。……眠っている間に新しい仕事が入ればいいネ」 「起きたら柩さんのところへ行ってみようか」 「そうだネ。昴、次の仕事も一緒に行こうネ?」 他のものなんて欲しくもない。鴇の存在さえあれば、昴の望むものは一つもない。 昴は、彼と共にある世界以外に興味はない。 互いに死ぬまで寄り添い合う関係。 決して溶け合うことができないのなら、せめて最期の時まで離れずに。 互いに求めているものが同じであると理解している昴にとって、それはあまりに易しいことだ。 「当たり前でしょう?」 昴はこの世界が好きだ。 鴇と自分を引き離さずにいてくれるくだらない世界が好きで、愛しいとさえ思う。 「俺と鴇は、いつまでも一緒だよ」 |