世界が、きらきらと眩しい。
 暇を持て余していたゼロスが何気なく甲板に上がってみれば、外はまさしく快晴だった。 真っ青な空に燦々と降り注ぐ陽光。肌を撫でていく風は心地良く、暑さはほとんど感じられない。
 過ごし易い天気だった。だというのに、甲板には珍しく人の姿がない。 おそらく、ギルドに寄せられた依頼のため外に出ている者が多いからだろう。
 辺りに見えるものといえば、空とよく似た色味をした海が大半を占めている。 何しろギルドの拠点であるバンエルティア号は、海賊船だ。移動は当然海の上で、他に道があるはずもない。
 太陽は惜しみなく海面を照らす。その光を乱反射させ、海は穏やかに波打っていた。 眩しさに思わず目を細めてしまうくらい、海の上に光が溢れている。
「あ、ゼロス」
 唐突に耳に飛び込んできた声へ視線を滑らせる。
「あれ、ロイドくんこんなとこで何やってんのよ。依頼で出掛けてたんじゃねーの?」
「今帰ってきたところだよ。お前こそ、ここで何してたんだ?」
「俺様ただいま優雅に黄昏中なのよ。絵になるっしょ?」
 目が合った途端に小走りで駆け寄ってきたロイドはゼロスの隣に立つと 「要するにお前、暇なんだな」と呆れたように肩を落とす。否定できない事実であるため、 ロイドの言葉は聞こえなかった振りで適当に流すことにした。
 さぁっ、と潮の匂いを多く含んだ風が頬を撫でるように吹く。気持ちの良い風に、ロイドが大きく伸びをした。
「良い天気だな」
 深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。 何度かそれを繰り返すロイドの表情は活き活きとしていて、依頼を終えて帰ってきたとは到底思えない雰囲気があった。 疲れは見えず、むしろうずうずと落ち着きなく今にも飛び出していきそうだ。
 帰ってきたばかりだというのに、そういう表情を見せるのが何だか少しだけ可笑しかった。
 ロイドの目が眩しい光を反射する海の上へするりと動いた。 その顔を横目に映しゼロスは「おかえりハニー」、とからかうような調子で言う。 ロイドはぱっとゼロスに振り向き「おう、ただいま!」と突き抜けるように明るい声色で返す。
「あっ、そうだ。ゼロス、頼みがあるんだけど」
「唐突に何よロイドくん。俺様に頼みなんて、高くつくぜ?」
「いや、大したことじゃないんだけどさ」
 そう言うとロイドは腰から提げた二振りの剣を軽く握り、真っ直ぐな眼差しをゼロスに投げた。
「剣の稽古、付き合ってくれよ」
「えー……帰ってきたばっかのくせに何でそうなるわけ? 俺様今そういう気分じゃねーのよ」
「少しくらいならいいだろ? な、ゼロス」
 あからさまにげんなりと顔を顰めてみせたゼロスに対し、ロイドは簡単には引き下がらない。
 まるっきり子供のような目をして、期待に胸を膨らませてさえいる様子はひどく純粋だ。 きらきらと、眩しいくらいに輝いている。断ることすら躊躇うような、そんな表情。 無碍にできないというか、嫌だと突っぱねてしまえばきっとこちらが罪悪感を覚えてしまう。
「……はいはい分かりましたよ。相手してやるよ、少しだけな」
「さっすがゼロス! 話が分かるぜ!」
 渋々と引き受ければ心から嬉しそうに弾む声が返ってくる。
 別に本心から嫌なわけではないし、時間を持て余していたという事実もある。 暇が潰せるうえに鍛錬もできるのなら、何も悪いことはない。 乗り気ではない顔をしているものの、ゼロスの思考はわりと前向きだ。
 穏やかな天気の中、辺りを眩しく光る海に囲まれて過ごす時間も悪くない。
「ありがとな!」
 そう言ってロイドがとびっきり明るい笑みを見せた。真っ直ぐで純粋で、眩しいくらいの笑顔。 釣られて笑みを浮かべてしまいそうになるのは、ロイドの気性が自然とそう働きかけるのかもしれない。
 きらきら、眩しい。世界は、今日も眩しく輝いている。


き ら き ら き れ い